世界

小さな頃は、いつもぼんやりと不安だった。 視界は狭く、何かから外れないように必死に綱渡りをしている気分だった。 わたしは世界のルールを知らないのだ。 はやく果てまで見聞を広めて、この世界を知らなければ。 もしかしたら、ここは誰かが見ている夢の…

親の家に住んで、お小遣いをもらっていた頃は、行ける場所は限られていた。 喫茶店に行くことも禁じられていた。コンビニエンスストアも町の外れに一件あるだけだった。本屋で立ち読みをするばかりだった。 高校生になって予備校に通うようになって、夕食を…

100円ショップ

100円ショップで買うもの ・水色の生ゴミネット 70枚入り ・半透明の手持ちつきポリ袋 15リットル ・T字剃刀 7本入り ・コロコロのシートの替え 160mm ・貼るタイプの便座シート 白 ・雑巾 輪っかが付いているもの ・薄いプラスチックのまな板 ・アイシャド…

推理小説

初めて推理小説を読んだのは、小学校の図書室にあった怪盗ルパン全集(ポプラ社)だと思う。 ジャンルは冒険小説にあたるのかもしれないが、この流れでシャーロック・ホームズを読み、同じ作者の同じ登場人物が登場するシリーズを最初から順番に読むという楽…

玄関

玄関の靴箱の上に小さなスペースがある。 紺色の海原の写真を引きのばして、額に入れて置いている。 そのまわりに、今年行った美術館のポストカードなどを並べることにしている。 スヌーピーミュージアムのトミカ。 ジブリ美術館のタイガーモス号のイメージ…

beautiful day

深い眠りから目が覚めても、暖かい布団の中でぼんやりとしていた。 夢の断片が頭をよぎる。 清潔な床、友人の笑い声、ざわめく木々の枝、そんな夢だった気がする。 ベッドからゆっくりと降りて寝室を出る。 古びた白いカーテンと窓を開けると、冬の透明な光…

万華鏡

万華鏡をひとつ、持っている。 ずいぶん前に赤坂のお店で購入したものだ。 ガラスとアイアンでできていて、赤いガラスの長方体の端に小さめの円筒形が曲面を接していて、円筒形ををつらぬく金色の棒をつまんで回す仕様になっている。 三角の覗き穴から見ると…

電話

スマートフォンを持っていない。 持っている人にとって、電話とはどのような存在なのだろうかと考える。 四六時中触っていて、いつも持っているもの。息をするように滑らかに、LINEやゲームやネット検索をしているもの。 その中の機能の一部に電話がある。 …

家には3種類の塩がある。 さらさらした海塩と岩塩と昆布の味がする塩だ。 別に料理が上手で使い分けている訳ではない。 使いこなせないので、いつまでも減らないのだ。 岩塩は鉱物だそうだ。自然の力で結晶化したもの。

コート

お洒落な人は、秋冬の重ね着の季節が好きだと聞く。 私はお洒落ではないので、重ね着が苦手だ。 天気予報や予定を考えても、それにぴったりと合う服はないのに、さらにトップスとカーディガンと上着を合わせるなんて。 そして、コート。 いくつかのコートを…

掃除

理想の掃除はお寺の掃除。 頭も胃腸も心も掃除済のお坊さんが作務衣を着て、毎朝掃除をする。 物が少ない室内は磨き上げられ、木の床は黒く光り、風が通る。 薄着と冬の庭は寒そうなのに、清々しさを感じる。 友人と古い一軒家に住んでいた頃、私の部屋は四…

両親

家族仲が良かったわけではない。 父親は昔ながらの一番風呂と上座にこだわり、ひどい癇癪持ちで、嫌味を言わずにはいられない人だった。自分のことは秘密主義で他人の価値観は認められなかった。 しかしその自分の価値観と世界を作り上げるパワーで、事業を…

好きな言葉

胸に世界の果をもつものは、世界の果に行かなきゃならぬ 安倍公房 人生はJOYだ。そう思うことだけが反逆なのだと思う。 吉本ばなな

散歩

武蔵小金井を散歩した。 南口から西の方へ歩く。通勤の際に住宅街を歩くときは、敷地いっぱいに詰め込まれた建物や中の様子が分からないように拒絶している窓に息が詰まるのだが、散歩のときは違う。 家が並んでいるのに、誰もいないような静けさ。光が降り…

大掃除

まず大掃除しなくてはと思い立つ。 ぼんやり浴室のカビ取りや換気扇の油汚れの掃除や片付けなどのイメージが浮かんでいる。 よく晴れた日に早起きして一気にやり遂げて、くたくただけど家はピカピカ、すっきりしたエンディングを信じている。 やり始めてから…

おばあさんとおばさん

なりたいおばあさんのイメージは昔からはっきりしていた。 大きな口を開けて、たくさん笑う。小柄でふくよかで足が小さい。髪はひっつめで、カラフルな布を巻くこともある。はっきりした色のワンピースを着ている。小さな小屋のような家に住んでいる。洗濯物…

ワイン

はじめてきちんとワインを飲んだのは、友人がスーパーで買ってきた赤玉ワインだったと思う。その後自分でも買って、赤はそのまま、白は炭酸で割って飲んだ。その友人とその畳の部屋のイメージもあいまって、ほわんと懐かしいあたたかい味を覚えている。 バー…

ステーキ

テレビで長寿の女性の食生活について取材しているところを観た。 沖縄のおばあちゃんだったと思う。 毎日ステーキを食べているとのことだった。 わたしは無性にそのおばあちゃんに憧れた。 現在は肉食はとくに好んでいないのに。胃腸が弱いし、思想的にもベ…

歌う

よく歌っていた。外でも家でも。 身体中に響かせて、大きな声で。 あまり特徴のない声だし、自分に酔っていたし、不快に感じたひともいただろう。 それでも激情といえるほどの非日常の感情を身体を使って発露することが必要だった。 そのうちに自分の歌がで…

石鹸

幼い頃、家に帰って手を洗ったあと、ふと手を見ると爪に白いかけらが付いていた。わたしは、あ、バターだと思いぺろっと舐めた。口の中に石鹸の味が広がって、無くならない。パニックになり、泣きながら母親のところに行ったことを覚えている。母親は大した…

筆記用具

書く道具にこだわりはない。 夫が職場から持ち帰ったボールペン、郵便局で買ったレターセットについていたハイジのボールペン、お笑い芸人のキャラクター付きのシャープペンシルなどが、机のペン立てに刺さっている。 父親にもらった青と金の上等なシャープ…

ガーリックスープ

とても寒く暗い夜だった。道路の脇にはまだ雪が残っていた。 コートのフードを被って、あまり顔を動かさないようにしていたので、視界が狭く余計に暗く感じたのかもしれない。 その中にぽつんと、オレンジがかった赤のちょうちんが見えた。ちょうちんには地…

長靴

幼い頃に住んでいたところは、たまに雪が積もった。 そのときは内側にボアが付いていて、底がスパイクになっているブーツを履いた。ちゃちなピンク色だった。だんだんとうす汚れて悲しかった。 雨の日の長靴は赤色だった。ピンク色のカッパを着るので派手す…

音楽

chara 話して尊いその未来のことを byork hyperballad massiveattack teardrop zero7 somersault

薬味

父は家事をしない方だったが、夕食が湯豆腐だったときは毎回〆の雑炊を作っていた。正確にいえば材料を用意していたのは母で、父は頃合いをみて立ち上がり、カセットコンロの上の土鍋に冷やごはんを入れ、おろし生姜と葱をたっぷり入れ、蓋をするのだった。…

言葉づかい

言葉づかいに関して、すぐ影響されるほうだ。 関西弁のドラマを観れば「ほんまや」と言うし、若者と話せば「やばみ」と言うし、長期の旅行に行けばすぐイントネーションが変わってしまう。 あまり考えずに口に出てしまう部分、相づちや感嘆や語尾の部分に影…

結婚式

晴れやかな空の下、白いドレスとタキシードの二人。 きちんと出会ってきちんと結婚し、きちんと世間にご挨拶。 二人も両親も友人も、全員を幸福にする儀式。 もちろんわたしも幸福になり涙ぐんでしまう。 でも、招待状が届いたそのときから、どこかに窮屈で…

花のにおい

沈丁花は爽やかにあまい。 ふっと鼻先に白い花の匂いを感じて、そのなかにスウィーティーみたいな果汁のジューシーさを嗅ぎとる頃には消えてしまう。つい必死になって小さな花を探してしまう。勝どき橋を思い出す。 ジャスミンはお茶で香りを知った。 広く咲…

支度

でかける支度が好きじゃない。 そもそも人に会うことが億劫だ。 気を使って話題を探しても盛り上がらず、食事する店を探しても満席だったり期待はずれだったり、疲れて帰ってきて家事や明日の準備をすることを考えて頭と身体が重くなってくる。 現実逃避が苦…

お粥

小さい頃寝込むと母が作ってくれたお粥は卵と梅干しが入っていて、味の素か何かわからないが、甘かったように記憶している。 中学生くらいになって、市販のセットを使ってトマトリゾットを食べた時、あまりに美味しくてびっくりした。 一人暮らしを始めて、…