表参道

季節が変わっていき時間が流れることに合わせられずに 呼吸は浅く肩をまるめて視野を狭めて目の端で世界をとらえるようにしている。 ミステイクは鈍く受け流し美しいものはさらりと眉のあたりだけで受け止める。 誰かと会話しているときの自分は輪郭と口先だ…

「女神」

画家の石井一男についての本を読んだ。 若い頃に絵を描いていたが空白の期間を経て、46歳からまた描き始めた。 住まいは神戸の棟割住宅、六畳の部屋をアトリエにして、新聞配達を続けながら。 専業画家となってもその生活はほぼ変わらない。 朝6時に起床、昨…

夢をみた

海へとつづく急勾配の街。人の気配があまりしない。 木々は大きくその緑は濃く、晴れているのに暗い。 重い静けさに包まれて酸素濃度が高いような深い空気。 わたしは出勤のため急いで道を下っている。 その道の下にある団地はもう誰も住んでいない。人々は…

センサー

上井草のいわさきちひろ美術館に「ショーン・タンの世界 どこでもないどこかへ」を観に行った。 道に迷いやすく地図が読めないので、どこかへ出かけるときは、行き方を調べて紺色のノートにメモして持っていくようにしている。(今回は上井草の駅から連綿と…

ライフ イズ ストレンジ

主人公はマックスという女子高生。ボブヘアでテイラー・スウィフトに似た顔立ち。内気で校内に友人はあまりいないようだ。写真を専攻していて、自撮りをよくする、おそらくカルチャー好きのオタクと認識されている。 このゲームが気に入ったのは、オレゴン州…

LIFE

幸福、という単語から思い浮かぶのは、小学生の頃ベッドに寝転んで眺めていた白いレースのカーテンの波。 裏山の落ち葉に埋もれて木々の間から空をあおぐ。 冬の家の中で日だまりが移動するのに合わせて自分も移動しながら本を読む。 時間から自由であること…

恋人たち

彼は異国生まれで、水泳とゲームが好きで、心も体も鷹揚に育った。 初夏のある日、自宅で仕事をするために人が集まった際に彼女にはじめて会った。 さらさらした黒髪と白い肌、仕事の有能さ異彩さにすぐに恋に落ちた。 駅まで彼女を送っていき、日が落ちて帰…

5月7日

湿度の高いつつじの花の匂いに包まれて 青いアゲハ蝶をみた しろいシャツとしろいズボン、髪をなでつけた男と しろとくろの花柄のワンピース、煙草を吸う女 南風がつよい みんなの洗濯物よ、乾け、乾け

中学の国語の教科書に志村ふくみさんの文章が載っていた。 桜が咲く前、まだ枝先も花の気配を漂わせない頃の桜の枝を折って染色につかうとうす桃色に染まる。桜の木は徐々に自らの幹に花のエネルギーを集めて、枝先にそれを貯めていく。そして一気に噴出して…

死について

死は覆い隠されていた。 曾祖父母は既におらず、引っ越しを繰り返していた核家族で育った。 地方都市の道路に、雀や蛙が車に轢かれて死んでいることがあった。 本で得たイメージか、友人と道端の花を摘んで、そのそばに撒いた。 ショックは受けたが、その死…

映画

はじめて観た映画はドラえもんだと思う。「のび太のパラレル西遊記」と「のび太の日本誕生」と「のび太と雲の王国」は映画館で観た記憶がある。 まだ入れ替え制ではなく、前の回が終わるのを廊下で待っていた。音が漏れてくるから、ラストがどんな雰囲気なの…

世界

小さな頃は、いつもぼんやりと不安だった。 視界は狭く、何かから外れないように必死に綱渡りをしている気分だった。 わたしは世界のルールを知らないのだ。 はやく果てまで見聞を広めて、この世界を知らなければ。 もしかしたら、ここは誰かが見ている夢の…

親の家に住んで、お小遣いをもらっていた頃は、行ける場所は限られていた。 喫茶店に行くことも禁じられていた。コンビニエンスストアも町の外れに一件あるだけだった。本屋で立ち読みをするばかりだった。 高校生になって予備校に通うようになって、夕食を…

100円ショップ

100円ショップで買うもの ・水色の生ゴミネット 70枚入り ・半透明の手持ちつきポリ袋 15リットル ・T字剃刀 7本入り ・コロコロのシートの替え 160mm ・貼るタイプの便座シート 白 ・雑巾 輪っかが付いているもの ・薄いプラスチックのまな板 ・アイシャド…

推理小説

初めて推理小説を読んだのは、小学校の図書室にあった怪盗ルパン全集(ポプラ社)だと思う。 ジャンルは冒険小説にあたるのかもしれないが、この流れでシャーロック・ホームズを読み、同じ作者の同じ登場人物が登場するシリーズを最初から順番に読むという楽…

玄関

玄関の靴箱の上に小さなスペースがある。 紺色の海原の写真を引きのばして、額に入れて置いている。 そのまわりに、今年行った美術館のポストカードなどを並べることにしている。 スヌーピーミュージアムのトミカ。 ジブリ美術館のタイガーモス号のイメージ…

beautiful day

深い眠りから目が覚めても、暖かい布団の中でぼんやりとしていた。 夢の断片が頭をよぎる。 清潔な床、友人の笑い声、ざわめく木々の枝、そんな夢だった気がする。 ベッドからゆっくりと降りて寝室を出る。 古びた白いカーテンと窓を開けると、冬の透明な光…

万華鏡

万華鏡をひとつ、持っている。 ずいぶん前に赤坂のお店で購入したものだ。 ガラスとアイアンでできていて、赤いガラスの長方体の端に小さめの円筒形が曲面を接していて、円筒形ををつらぬく金色の棒をつまんで回す仕様になっている。 三角の覗き穴から見ると…

電話

スマートフォンを持っていない。 持っている人にとって、電話とはどのような存在なのだろうかと考える。 四六時中触っていて、いつも持っているもの。息をするように滑らかに、LINEやゲームやネット検索をしているもの。 その中の機能の一部に電話がある。 …

家には3種類の塩がある。 さらさらした海塩と岩塩と昆布の味がする塩だ。 別に料理が上手で使い分けている訳ではない。 使いこなせないので、いつまでも減らないのだ。 岩塩は鉱物だそうだ。自然の力で結晶化したもの。

コート

お洒落な人は、秋冬の重ね着の季節が好きだと聞く。 私はお洒落ではないので、重ね着が苦手だ。 天気予報や予定を考えても、それにぴったりと合う服はないのに、さらにトップスとカーディガンと上着を合わせるなんて。 そして、コート。 いくつかのコートを…

掃除

理想の掃除はお寺の掃除。 頭も胃腸も心も掃除済のお坊さんが作務衣を着て、毎朝掃除をする。 物が少ない室内は磨き上げられ、木の床は黒く光り、風が通る。 薄着と冬の庭は寒そうなのに、清々しさを感じる。 友人と古い一軒家に住んでいた頃、私の部屋は四…

両親

家族仲が良かったわけではない。 父親は昔ながらの一番風呂と上座にこだわり、ひどい癇癪持ちで、嫌味を言わずにはいられない人だった。自分のことは秘密主義で他人の価値観は認められなかった。 しかしその自分の価値観と世界を作り上げるパワーで、事業を…

好きな言葉

胸に世界の果をもつものは、世界の果に行かなきゃならぬ 安倍公房 人生はJOYだ。そう思うことだけが反逆なのだと思う。 吉本ばなな

散歩

武蔵小金井を散歩した。 南口から西の方へ歩く。通勤の際に住宅街を歩くときは、敷地いっぱいに詰め込まれた建物や中の様子が分からないように拒絶している窓に息が詰まるのだが、散歩のときは違う。 家が並んでいるのに、誰もいないような静けさ。光が降り…

大掃除

まず大掃除しなくてはと思い立つ。 ぼんやり浴室のカビ取りや換気扇の油汚れの掃除や片付けなどのイメージが浮かんでいる。 よく晴れた日に早起きして一気にやり遂げて、くたくただけど家はピカピカ、すっきりしたエンディングを信じている。 やり始めてから…

おばあさんとおばさん

なりたいおばあさんのイメージは昔からはっきりしていた。 大きな口を開けて、たくさん笑う。小柄でふくよかで足が小さい。髪はひっつめで、カラフルな布を巻くこともある。はっきりした色のワンピースを着ている。小さな小屋のような家に住んでいる。洗濯物…

ワイン

はじめてきちんとワインを飲んだのは、友人がスーパーで買ってきた赤玉ワインだったと思う。その後自分でも買って、赤はそのまま、白は炭酸で割って飲んだ。その友人とその畳の部屋のイメージもあいまって、ほわんと懐かしいあたたかい味を覚えている。 バー…

ステーキ

テレビで長寿の女性の食生活について取材しているところを観た。 沖縄のおばあちゃんだったと思う。 毎日ステーキを食べているとのことだった。 わたしは無性にそのおばあちゃんに憧れた。 現在は肉食はとくに好んでいないのに。胃腸が弱いし、思想的にもベ…

歌う

よく歌っていた。外でも家でも。 身体中に響かせて、大きな声で。 あまり特徴のない声だし、自分に酔っていたし、不快に感じたひともいただろう。 それでも激情といえるほどの非日常の感情を身体を使って発露することが必要だった。 そのうちに自分の歌がで…