「蔵六の奇病」日野日出志 リイド文庫
作者のマンガ世界の原点だという6作品が収められている。
なかでも「赤い実のなる踏切」が素晴らしい。
他の作品でも、一コマが一枚の絵としても成り立つくらい丁寧に描かれている(表題作は39ページを完成させるのに丸一年かけたとのこと)が、「赤い実のなる踏切」では絵本のように、1ページが1枚の絵と下に5行程度の文章で構成されている。
廃線となった線路が小川にかかり、踏切とその脇に立つ木造の家、小さな姉弟の姉が赤い実をもらうというやはり童話のような導入部。
踏切のそばの家という特異な風景。
着物に黒髪のおかっぱ、睫毛と唇のつややかな姉の美麗さ。
想像できない筋運び。
独自の不穏さと絵の美しさが際立っている。