「僕は鳥になりたい」西炯子 小学館文庫

表題作。

 

特に春先になると ぎしぎしと何かがきしむような音がした

それは何かがせめぎ合ってるような音だ

そして常にその音は俺の体の中にもあったのだった

 

東京から離れた男子校。4人部屋の寮に暮らす高校3年生の針間。(受験にはとらわれない、作家志望、よくもてる)

針間と同室の両角(家庭環境の問題、孤独、翼で飛ぶことを夢みる)とミッションスクールに通う新田由子(父子家庭、針間を恋愛対象として見ていない)との交友。

にぎにぎしい高校生活。分かりやすい主題は受験勉強と性欲だろう。そこからこぼれ落ちた感受性がある。スクラムを組むような友情ではなく、自由を夢見る両角を見守る針間。恋愛ではなく、聖母のように佇む新田由子。

そこでしか息をつけない、その幸福。あまりに頼りない、その淋しさ。