「アンダーカレント」豊田徹也 講談社

  関口かなえは、亡くなった父の後を継いで銭湯を営業している。2ヶ月ほど前に夫が失踪したため、木島のおばさんと二人では続けることが難しい。銭湯組合の紹介で堀という男性を雇うことになった。

 おそらく下町、主人公はショートカットで凹凸が少なくさっぱりした見た目、親戚や同級生やシングルマザーやふらふらしたお爺さんや探偵が現れる。

 虚無を抱えた主人公と下町と他人との軋轢や交流、いちばん苦手な路線ではある。日々の生活感や決まりきった文句やら、現実の人生でうんざりすることをしつこく救いなく描くものが多いからだ。

 ストーリーと環境設定はそれに分類されるものの、読後感はまったく違う。はっきりと文字にできないが、すごくさびしいような、せつないような、ぐっとくるものがある。

 映画を描きおこしたかのような装飾の少ない絵柄とコマの運び。登場人物はそれぞれの人生を自分で抱え、他人にその重さを感じさせないようにする気高さを持っている。だからこそ、他人のもつ虚無をおもいやれる。それとは感じさせないほど、密やかな愛を、セリフではなく感情ではなく、表現した作品だった。