バター

子どもの頃、うちに大人がいないときは、家中を探索した。

タンスの中の婚約指輪を発見し、押し入れの天袋の天井裏に入り、冷蔵庫のバターを食べた。

乳白色の楕円形の容器から、セットされたバターナイフでたっぷり掬いとって、食べた。

婚約指輪は隠され、病気になるから天井裏には行かないように言われたが、バターのことは何も言われなかった。

その後も何度か、食べた。

大人になって、友人の結婚披露宴にて、「今朝作りたてのバター」が出された。

どこまでも軽くて、油くささのない、ふんわりした、うす黄色のバター。

いつか、自分でつくることを夢見ている。