映画

はじめて観た映画はドラえもんだと思う。「のび太のパラレル西遊記」と「のび太の日本誕生」と「のび太と雲の王国」は映画館で観た記憶がある。

まだ入れ替え制ではなく、前の回が終わるのを廊下で待っていた。音が漏れてくるから、ラストがどんな雰囲気なのか分かってしまう。ひとつは満席のため立ち見で、母親の靴の上に座って観た。暗くてひんやりした床をさわりながら。

三蔵法師の姿のしずかちゃんに違和感を感じたこと、吸い込まれるひょうたんや動く土偶は恐ろしく、ピンク色の雲から甘い匂いがするような気がしたことを覚えている。

風の谷のナウシカ」はビデオを買ってもらい、家の和室で両親と一緒に観た。最初と最後しか意味が分からなかったが、入り込むようにして観た。

ディズニーの「眠りの森の美女」と「アラジン」もビデオがあり、何度も観た。

となりのトトロ」「火垂るの墓」「魔女の宅急便」「おもひでぽろぽろ」もドラえもんと同じく、親に連れられて映画館で観た。順番に映画館で観られた幸せな世代だ。

耳をすませば」は初めて前売り券を3枚買ってもらい、母親と友達と3人で観に行った。絵の入った半券が残るのがうれしかった。帰り道に母親に、現実にはあんな男の子はいないよと釘をさされた。

アニメではない映画は「フライド・グリーン・トマト」が初めてだった。

たぶん母親の友人たちと何人かで観にいったのだと思う。壁をこわすシーンだけ覚えている。暑い日だった。

「REX恐竜物語」は子どもだけで観に行った。男女5人だった。わたしは青いショートパンツを履いていたと思う。アイスを食べて帰ってきた。

タイタニック」はクラスの女友達4人で観に行った。全員号泣した。映画館を出た後、はじめて芸能人とすれ違い、ケーキバイキングに行ったが、胸がいっぱいでそれどころではなかった。

親友がかわいらしい映画が好きだったため、「ポネット」「ロッタちゃんのお買い物」「ベイブ」「マイガール」なども好きになる。サウンドトラックを録音したカセットテープをよく聴いていた。

父親がゴルフ番組を視聴するためWOWWOWとケーブルテレビに加入し、観たい映画を何本も観るようになった。

オードリー・ヘップバーンゴダールを一通り観た後は、毎月の番組表を端から端までチェックし、月に10本だけと決めて、丸をつけ手帳に記入し録画した。好きなファッションやインテリアがあるとビデオを止めて必死にノートに書き写していた。

たくさんのビデオテープを部屋に並べて、好きな順に並べ替えて満足していた。

全て処分してしまったので何を所持していたか忘れてしまったが、「デッドマン」「幻の女」「キルトに綴る愛」「サバイビング・ピカソ」「ミツバチのささやきヤン・シュバンクマイエルはお気に入りだった。

上京してテレビを購入しなかったため、映画館に行くようになる。まったく観ない時期と、立て続けに観る時期があった。秋が深まると無性に観たくなって、一週間毎日映画館に行くこともあった。渋谷のシネマライズで「アメリ」を、池袋の新文芸坐ジム・ジャームッシュのオールナイトを、日比谷シャンテで「イングリッシュ・ペイシェント」を観た。

恋人と観たDVDや映画は「ラスベガスをやっつけろ」「生きものの記録」「クレヨンしんちゃん嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」「クレヨンしんちゃん嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」「インセプション」「THIS IS IT」「アバター」「冷たい熱帯魚」「ダークナイト」「ヒミズ」など。観終わったあとに、感想や解釈を語り合うのが好きだ。たとえそれが間違っていても浅くてもいいのだ。さきにネットの解釈を検索されたり、映画を観る熱意や集中力がない人だととてもがっかりして悲しくなる。

友達数人と一緒に住んでいたころは、もらいもののテレビで映画を観るようになった。ゴッドファーザーや「悪人」やキューブリックの映画など、とくに約束もせずリビングで誰かが観始めると、帰ってきた順に1人2人とこたつに入り込み、話の筋を説明しながら、お茶のお湯を足しながら観た。

すごく傷ついてつらいとき、ホラー映画を観るようになった。スティーブン・キング原作のものが多かったが、「ドリームキャッチャー」「IT」「ミスト」「クリスティーン」など。物語のこわさは、現実の痛みには及ばない。それでもウイスキーのロックを少しずつ飲みながら観るホラー映画は、いがいがした胸のつらさを和らげてくれた。

結婚してしばらくはテレビもなかったし、観ない期間が続いた。知人から安くテレビを譲ってもらい、仕事を始めて、帰り道にTSUTAYAがあったので、DVDをレンタルするようになる。ブランクがあったので、アメリカの古い恋愛映画をずらずら観た。軽く3本くらい観られるし、元気づけられたりもするのだけれど、何故か観終わったあとに消化不良のような心持ちになる。世界観だろうか。恋愛映画はリアルタイムの現実が舞台のことが多く職場も描かれるが、どうもその世界がわたしには居心地が良くない。ある人に惹かれるが障害があり上手くいかないという状況も気に食わない。ということで恋愛映画を観ることはやめた。

それからこれは年をとってからだが、貧乏だったり病気だったり行き詰まっている状況だったり、ただ残酷な描写を並べていく映画は苦手になった。どんな状況でも本人が幸福でプライドを持っていればOK。

今年は夫が持っているDVDを端から観ていった。「エイリアン3」「コンタクト」「ホテル・ルワンダ」「ブエナ・ビスタ・ソシアルクラブ」「WATARIDORI」など。

職場の同僚から借りたクエイ兄弟の作品はとても好みだった。

TVで放映されたものを録画した「君の名は」「シン・ゴジラ」「ファンタスティック・ビースト」を観た。

週5日外に働きに出て、休日は用事をすませ、毎日家事をしている状況のなか、映画を観る時間を確保することはけっこう難しい。でもできるだけ、用事がすべて終わった状況で、飲み物だけを用意して、部屋を暗くして、2時間映画の中に入り込めるようにして観るようにしている。役者や監督やストーリーやテーマやつっこみどころやエンドロールなどをなるべくセンサーを鋭くしたうえで、感じ取りたいし思考したいと思う。なぜ映画を観るのか?入り込むこと、センサーを鋭くすることが幸福だからだ。

観たい映画のリストはぶ厚くたまっている。またどんどん観ていったりまったく観ない時期もあるだろう。そしておばあちゃんになったとき、暖炉のある部屋でロッキングチェアに揺られながら、大好きな映画をなんどもなんども繰り返し観るのだ。