彼女の部屋

駅舎の屋根の下を出て、ウルトラマンのおしりを横目に見ながら高架下を歩く。

晴れた午後の日の当たる白い壁を連想する、からりとした街。

「左に大きな金木犀の木があって、その先の右にタクシーがたくさん停まっているところまで来て」と友人は言った。

もとは寮だったというそのマンションは、エントランスを抜けても敷地内には木々が並んでいて、林を進むように、声をひそめて通路を歩く。

部屋の扉を開けると地下へ下る階段と二階へ上がる階段がくっついて並んでいる。

半地下へ降りると、薄暗い白熱電球の灯りのアトリエのような間取り。奥の高い位置に窓があり、中庭の木が見える。猫もふらりと寄るらしい。

壁に貼られた星図の下で、パソコンで映画を観たり、ポルトガルのワインを飲んだり、私の夫と三人でクリスマスケーキを食べたこともあった。

二階のベッドルームで彼女の不要になった洋服や本を並べて、友人たちとのんびり、もらうもらわない、似合う似合わないをジャッジしたりもした。

(グレーの半袖のカーディガンとマーガレットハウエルのパンツをもらった)

炊飯器とテレビのないあの部屋で、彼女は別棟の洗濯室で洗濯をしたり、ホットカーペットの上で朝まで寝てしまったり、仕事に追われたり、恋人にメールをしたり、猫に餌をあげたりしていたのだろう。

引っ越してしまった今も、彼女を思うとき、その頬のあたりにその部屋の灯りのオレンジ色と、地下と彼女の選んだものが混じった匂いが内包されている。