長靴

幼い頃に住んでいたところは、たまに雪が積もった。

そのときは内側にボアが付いていて、底がスパイクになっているブーツを履いた。ちゃちなピンク色だった。だんだんとうす汚れて悲しかった。

雨の日の長靴は赤色だった。ピンク色のカッパを着るので派手すぎたのだと思う、居心地がわるかった。母親のオフホワイトで、金色の金具が付いている長靴が上品で羨ましかった。

自分で靴を買うようになってからは、雨の日用の靴を長く持っていなかった。スニーカーばかり履いていたし、お金がなかったし、生活の実用品よりも憧れの品物を手に入れる喜びを優先する年頃だったのだろう。靴の中が雨水でいっぱいになり、がっぽがっぽさせながら歩いて帰り、ズボンをしぼって部屋の中に干して、乾けばそのまま履いていた。靴はタイル張りのお風呂場で石けんで洗った。

布製のスニーカーを履くようになってから、ようやく雨の日用の靴を用意する必要にかられた。

まずはパラディウムの足首まである黒い防水スニーカーを購入した。ごつごつしていて、厚い靴下でもへいきでお気に入りだった。去年の夏に激しい夕立がきて傘をさしてもずぶ濡れになり、雨宿りしている人に笑われて、しょんぼり帰ったら、翌日そのパラディウムの靴が猛烈に臭くなった。今まで隠れていた雑菌が雨水の浸水で爆発的に増殖したらしい。熱湯に沈めようが漂白しようがその生臭さはとれることがなく、処分した。

その後日本野鳥の会の緑色の長靴を購入した。膝下まですっぽりと覆い、上部は巾着状にしぼれるため、浸水することはまずない。ゴムがやわらかくて、雨が降っていなければ畳んで足首サイズにすることができる。使用後は水で砂と汚れをすすいで乾かせばいい。お気に入りで、職場の人にどこのものか聞かれ、二人が購入している。難点は小雨程度の日には大袈裟なことと、わたしの容姿だと農家感がでてしまうことだ。つぎはグレーにしようと思う。

ほんとうは小雨の日用に、またパラディウムのスニーカーも欲しいところだけれど、靴が増えすぎてしまうので躊躇している。実用品は幸福で愛おしいものだが、用途別に際限なく品物が用意されているのもまた息が詰まる。カタログを吟味し、上質さと収入を考えて、幸福と不便さのバランスをとる。わかっていても失敗ばかりだ。