恋人たち

彼は異国生まれで、水泳とゲームが好きで、心も体も鷹揚に育った。

初夏のある日、自宅で仕事をするために人が集まった際に彼女にはじめて会った。

さらさらした黒髪と白い肌、仕事の有能さ異彩さにすぐに恋に落ちた。

駅まで彼女を送っていき、日が落ちて帰宅する人が行き交う駅前でそのまま告白した。

彼女はびっくりすると同時に心の底の好奇心が動いて、数日のち、ふたりは付き合いはじめた。

親のいない彼女は学生時代はほとんど勉強も遊びもしてこなかったそうだ。他人に気をつかって家事に明け暮れるうちに、たべることや生きる気力がわかなくなっていった。

一年間部屋のなかに閉じこもって機械になりたいと思いながら、はじめて勉強して資格を取り、就職した。

彼女は手探りでがむしゃらに仕事に打ち込んでいたが、一人暮らしの部屋には食べ物も敷き布団も無かった。

ほどなくふたりは入籍し、一緒に暮らしはじめた。

わたしが彼の家に仕事のために向かう途中、彼女が帰ってこないとメールが届いた。そして彼の家の並びにある小さな公園のブランコにもたれる彼女を見つけた。居場所と安心するように彼に伝えて、放心した彼女に近づく。

彼女はほうっておいてほしいと言った。自分が心ゆくまで。そうしたら自分のリズムで家に帰ることができると。

彼の気持ちと仕事の状況を考えるとそうもいかず、懇願のすえに彼女を家まで連れて行った。

彼は玄関先でがばりと彼女を抱擁して、大雑把で愛のあることばを伝える。

その言葉が、彼女のあまりにも繊細で底の深いひだには届かないことはわたしにもわかる。

彼は同じ屋根の下にいることですっかり安心しているようだけれど、彼女のこころは今とても遠いところにいて、まだ帰ってこれないのだ。