7月の午前中

祖父母の家へとつづく砂利道。 糞か肥料か、つよい匂い。 草に埋もれた古い線路。 京都駅で泣いていた女友達。

水に溶ける

車や電車に乗っていて、遠くに海がちらっと見えたときの喜びは、小さな頃から変わらない。 夏でも冬でも、気の進まない旅であったとしても。 どんなに小さな面積でも、見えなくなるまで真剣に見つめている。 容量の差か、湖や川だと、少し興奮度は下がるもの…

チーム・バッカス

生まれつき、お酒がつよいのだと思う。 お屠蘇や、チョコレートボンボンや、親にからかわれて少し味見をした経験の後、友達の家で缶に入ったスクリュードライバーを飲んだ。 友達の顔が赤くなっていくのが羨ましかったのを覚えている。 大学の頃、赤玉ワイン…

遠くへ

迷子の呼び出し放送の仕事をしたことがある。 こどもや親が申告する場合が多かったが、スタッフや他の人が連れてきたり、自分が発見することもあった。 泣いていたり、しょんぼりしているこどもに話しかけ、手を握り、背中をたたいて椅子に座らせる。 彼らは…

「アンダーカレント」豊田徹也 講談社

関口かなえは、亡くなった父の後を継いで銭湯を営業している。2ヶ月ほど前に夫が失踪したため、木島のおばさんと二人では続けることが難しい。銭湯組合の紹介で堀という男性を雇うことになった。 おそらく下町、主人公はショートカットで凹凸が少なくさっぱ…

かばん

興味はあるけれど、そんなにセンスがあるわけでもない。 透明ビニールのちいさなポシェット、ヴィヴィアン・ウエストウッドの茶色い手提げかばん、無印良品のベージュのナイロン製ビジネスバッグ、古着屋で買った金のチェーンがついた黒のポシェット、真っ白…

煙草

30歳まで煙草をすっていた。 ほそいメンソールや、雑誌の写真を真似たハイライトや、恋人とお揃いのマイルドセブン、最後は緑色やオレンジ色のアメリカンスピリットだった。 はじめは、誰にも見せない部分だった。 ひとりの部屋で、星を見上げながら、煙草を…

四つ葉のクローバー

小学校5年生まで、低山のすそにある住宅街のはずれに住んでいた。 その住宅街はまだ開発中だったのか、土を盛り立て、ごつごつしたコンクリートの石でせき止めてはいたものの、そこら中に空き地があった。 わたしとそこの子供達は、仕切りを飛び越えて、その…

ねむること

わたしはあまり、恋愛というものが必要なタイプではないと思う。 恋愛というか、恋愛相手というか、他者というもの。 好きなこと(読書、絵を描く、お茶を飲む、考えごと…)はひとりでするものばかりだし、小さな頃から将来はひとりで海辺で暮らすものだと考…

「バカの壁」養老孟司 新潮新書

養老孟司さんが話した内容を新潮社編集部の人が文章化、2003年に出版された。 理解を深める際に、難解さや時間や環境で、理解を諦める瞬間がある。つまり自分の脳で、壁を作って、放棄を決定することを「バカの壁」と表現。 大衆をバカにしているのではなく…

「イッツ・オンリー・ア・トークショー」中島らも 鮫肌文殊

・南方熊楠みたいなゲロ ・中華料理屋でチャーハンとライスを頼む ・躁病になり、床でウンコをし、万能感にあふれ、引き寄せ現象がおこる ・80年代パンク界のステージ上で起こったこと ・ふんどしパブ ・アル中 ・ムッシュかまやつの15、6歳頃 ・河原乞食 こ…

「職人ワザ!」いとうせいこう 新潮文庫

この文庫には、土屋鞄製造所のブックカバーをつけていた。(紀伊國屋書店で配られたものらしい) 木のテーブルに並べられた鞄職人の方の道具が並べられた写真。 本書は三十代後半に浅草へ移り住んだ著者が、町の仕事士たちにものづくりの話を聞くという、雑…

「血族 アジア・マフィアの義と絆」宮崎学 幻冬社アウトローズ文庫

謝俊耀の人生を通して、第二次世界大戦〜中国の国共内戦〜ビルマの少数民族独立運動〜ヴェトナム戦争〜カンボジアのポル・ポト政権等を描き出したノンフィクション・ノベル。 謝俊耀は1925年、中国梅県の客家(※1)に生まれた。 イギリス植民地下のシンガポ…

「愛すべき娘たち」よしながふみ 白泉社

女性の視点から、親子関係や社会の抑圧や高潔さの保持を、あらためて独自のセリフで表現し直している連作短編集。 とくに最終話は胸につまるものがある。 嫌な性格にならないように不細工と言い聞かせた祖母とそのため確執の残る母、そのコンプレックスを見…

「アドルフに告ぐ」全4巻 手塚治虫 文春文庫

ヒットラー出生の秘密文書を巡る3人のアドルフの戦いを、1936年から1983年に渡って描いている。 「総合小説」という言葉があるが、政治・戦争を、時代の匂い・町の雰囲気を、殺人・狂気・正義・欲望・愛情・希望の群像劇を、どうしたらひっくるめて物語をつ…

「世界ケンカ旅」大山倍達 徳間文庫

空手家・大山倍達の若かりし頃の記録。 清澄山での一年半の山ごもり、山からおりて牛を49頭倒し、70頭の角を折る。 空手を広めるためにアメリカへ渡り、プロレスの前座として巡業する。 世界中の格闘術を観てまわり、また対峙する。 裏表紙には「男のための…

「僕は鳥になりたい」西炯子 小学館文庫

表題作。 特に春先になると ぎしぎしと何かがきしむような音がした それは何かがせめぎ合ってるような音だ そして常にその音は俺の体の中にもあったのだった 東京から離れた男子校。4人部屋の寮に暮らす高校3年生の針間。(受験にはとらわれない、作家志望、…

「BANANA FISH ANOTHER STORY」吉田秋生 小学館文庫

少女まんが家にしてコンクリートの廃墟を描くのが得意とのこと。 大雑把に言ってしまえば、NYのギャング・ストーリー。圧倒的な筋運びの面白さ。 主役のアッシュの魅力。(灰色がかった金髪と怒ると赤い色に見える、悪魔の緑色の瞳。IQ180以上の頭脳。鍛えら…

「ゲゲゲの鬼太郎①」水木しげる 中公文庫

小学校低学年の私は同級生の家で、アニメを観ていた。 記憶によれば、ねずみ男に騙されて鬼太郎が海のバケモノになってしまうという筋書きだったと思う。 何倍もの大きさにふくれあがり、汚い緑色になり、声が出せなくなった鬼太郎。 小舟に乗ったともだちに…

「墓場鬼太郎①」水木しげる 角川文庫

貸本まんがとして描かれたものの復刻版。 この頃(1959)の技法・印刷技術については全くわからないが、収録されたカラーページはポスターのように素敵である。 黒と白の一枚の版画のような一コマに、むしろアメコミの主人公のようなサラリーマンが登場する…

「蔵六の奇病」日野日出志 リイド文庫

作者のマンガ世界の原点だという6作品が収められている。 なかでも「赤い実のなる踏切」が素晴らしい。 他の作品でも、一コマが一枚の絵としても成り立つくらい丁寧に描かれている(表題作は39ページを完成させるのに丸一年かけたとのこと)が、「赤い実のな…

夕闇

暗い夕暮れ 祭囃子が漏れ聞こえる かすかに金木犀のかおりがする 幼い頃幽霊を見上げた ピアノ教室に向かって歩いていた 胸に同じさみしさ

身体性

ひとりお湯に沈んで 取り囲む木々をみつめて 話しかけるように 木々は少しずつ揺れ始める 葉ずれの音に同化してゆく 冷たい山の空気が額を撫でる 白い朝の光に裸体を晒す そこには老いて贅肉を垂らした恥は無く(鏡に映した他者) なにかいいもののような私…

残暑

人気のない正午 青いままでしなびた赤茄子の実 かさついた葉 道路のゴミ袋も乾いて 夏が枯れていく

自転車を買いに

金曜日・天気は曇り・気温29度・湿度65パーセント。 すごく調子がいい訳でも悪い訳でもなく、少し眠りが浅くて、ゴシップ記事やスナック菓子が欲しくなるくらいの駄目さ加減。 自転車を買いに出かけた。駅前に着いたら18時を過ぎていたから、お金をおろすの…

情報処理

アンテナに引っかかったとき、まずその全てを把握し理解してから、自分の言語に置き換え、必要なワードをピックアップし、不要な情報を捨てて、必要な物だけを記述してファイリングしたい。 これには膨大な時間と集中する為のコンディションが必要な為、でき…

住宅街

汗で服が張り付く。 下水の臭いがこみ上げてくる。 生ぬるい風が吹いて 雨を待っている。 望み通り 通り雨の後 大気を洗って 神社の緑が重く黒ずんで 虹を探しながら 家へ帰る。

ガールズルール

ひぐらしの声。草原の向こう、黒い森を背に白く浮き上がる少女達。 なだらかな脛が童話のように遠い。 夜のプール。安い電飾と色の付いた旗。白い頬に水面が揺れる。 笑い声もひそやかに反響している。 固い髪、ひそめる眉、黒い瞳、白い襟、水色の裾、弓 血…