2018-08-01から1ヶ月間の記事一覧

花のにおい

沈丁花は爽やかにあまい。 ふっと鼻先に白い花の匂いを感じて、そのなかにスウィーティーみたいな果汁のジューシーさを嗅ぎとる頃には消えてしまう。つい必死になって小さな花を探してしまう。勝どき橋を思い出す。 ジャスミンはお茶で香りを知った。 広く咲…

支度

でかける支度が好きじゃない。 そもそも人に会うことが億劫だ。 気を使って話題を探しても盛り上がらず、食事する店を探しても満席だったり期待はずれだったり、疲れて帰ってきて家事や明日の準備をすることを考えて頭と身体が重くなってくる。 現実逃避が苦…

お粥

小さい頃寝込むと母が作ってくれたお粥は卵と梅干しが入っていて、味の素か何かわからないが、甘かったように記憶している。 中学生くらいになって、市販のセットを使ってトマトリゾットを食べた時、あまりに美味しくてびっくりした。 一人暮らしを始めて、…

「農場の少年」という小説に、靴をつくる場面がある。 うろ覚えだが、農場に靴作りのおじさんがやってきて、父親がそろそろこの子にブーツを作ってやってくれと言う。 おじさんはその場で革をのばして太い糸で縫い合わせて、あたたかで丈夫な水のしみないブ…

鞄の中身

黒いフランス製のリュックサック 大学のブックカバーに包まれた文庫本(いまは「マルタの鷹」) 知り合いのおじいさんが作ってくれた巾着袋の中に、財布と携帯電話 がま口の中に、鍵と目薬とリップクリームとマヌカハニーのど飴 前のポケットに、iPodとBOSE…

食の嗜好

母は料理が不得意だった。 面倒くさがりで甘党だったため、出汁をひかず、煮物は甘く、野菜はいつも大きめに切られていた。 あんこと果物が好きで、ご飯に牛乳をかけたものをよく食べていた。 父はカレーが嫌いで、和食派だった。キムチとかっぱえびせんが好…

つい、 自分を肯定してくれる、 自分の望みをかなえてくれる、 世界を良くするために全力を尽くす、 仕事も車も家も子どもも動物ももっているってイメージしちゃう。 確かではないがわたしのことが好きで、 泣かせたり怒らせたり笑わせたりしてくる、 同居人…

ひとつめの小学校

地方都市の山沿いだった。 となりの町まで小さな川や団地をこえて歩いていった。 寺子屋までさかのぼることができる、創立100年をこえる小学校だった。 二宮金次郎の像があった。(夜に目が光るという噂) 音楽室は古いベルベットの匂い。(壁のベートーベン…

化粧

はじめて化粧をしたときの感情は、けっして楽しいものではなかった。 不健全な年頃だった。 頬のうぶ毛も、まるい輪郭も、濃い眉毛も、重たい瞼も、目の下のくまも、気に入らなかった。 友達に仲間外れにされないように、馬鹿にされないように必死だった。 …