2019-01-01から1年間の記事一覧

彼女の部屋

駅舎の屋根の下を出て、ウルトラマンのおしりを横目に見ながら高架下を歩く。 晴れた午後の日の当たる白い壁を連想する、からりとした街。 「左に大きな金木犀の木があって、その先の右にタクシーがたくさん停まっているところまで来て」と友人は言った。 も…

表参道

季節が変わっていき時間が流れることに合わせられずに 呼吸は浅く肩をまるめて視野を狭めて目の端で世界をとらえるようにしている。 ミステイクは鈍く受け流し美しいものはさらりと眉のあたりだけで受け止める。 誰かと会話しているときの自分は輪郭と口先だ…

「女神」

画家の石井一男についての本を読んだ。 若い頃に絵を描いていたが空白の期間を経て、46歳からまた描き始めた。 住まいは神戸の棟割住宅、六畳の部屋をアトリエにして、新聞配達を続けながら。 専業画家となってもその生活はほぼ変わらない。 朝6時に起床、昨…

夢をみた

海へとつづく急勾配の街。人の気配があまりしない。 木々は大きくその緑は濃く、晴れているのに暗い。 重い静けさに包まれて酸素濃度が高いような深い空気。 わたしは出勤のため急いで道を下っている。 その道の下にある団地はもう誰も住んでいない。人々は…

センサー

上井草のいわさきちひろ美術館に「ショーン・タンの世界 どこでもないどこかへ」を観に行った。 道に迷いやすく地図が読めないので、どこかへ出かけるときは、行き方を調べて紺色のノートにメモして持っていくようにしている。(今回は上井草の駅から連綿と…

ライフ イズ ストレンジ

主人公はマックスという女子高生。ボブヘアでテイラー・スウィフトに似た顔立ち。内気で校内に友人はあまりいないようだ。写真を専攻していて、自撮りをよくする、おそらくカルチャー好きのオタクと認識されている。 このゲームが気に入ったのは、オレゴン州…

LIFE

幸福、という単語から思い浮かぶのは、小学生の頃ベッドに寝転んで眺めていた白いレースのカーテンの波。 裏山の落ち葉に埋もれて木々の間から空をあおぐ。 冬の家の中で日だまりが移動するのに合わせて自分も移動しながら本を読む。 時間から自由であること…

恋人たち

彼は異国生まれで、水泳とゲームが好きで、心も体も鷹揚に育った。 初夏のある日、自宅で仕事をするために人が集まった際に彼女にはじめて会った。 さらさらした黒髪と白い肌、仕事の有能さ異彩さにすぐに恋に落ちた。 駅まで彼女を送っていき、日が落ちて帰…

5月7日

湿度の高いつつじの花の匂いに包まれて 青いアゲハ蝶をみた しろいシャツとしろいズボン、髪をなでつけた男と しろとくろの花柄のワンピース、煙草を吸う女 南風がつよい みんなの洗濯物よ、乾け、乾け

中学の国語の教科書に志村ふくみさんの文章が載っていた。 桜が咲く前、まだ枝先も花の気配を漂わせない頃の桜の枝を折って染色につかうとうす桃色に染まる。桜の木は徐々に自らの幹に花のエネルギーを集めて、枝先にそれを貯めていく。そして一気に噴出して…

死について

死は覆い隠されていた。 曾祖父母は既におらず、引っ越しを繰り返していた核家族で育った。 地方都市の道路に、雀や蛙が車に轢かれて死んでいることがあった。 本で得たイメージか、友人と道端の花を摘んで、そのそばに撒いた。 ショックは受けたが、その死…