花のにおい

沈丁花は爽やかにあまい。

ふっと鼻先に白い花の匂いを感じて、そのなかにスウィーティーみたいな果汁のジューシーさを嗅ぎとる頃には消えてしまう。つい必死になって小さな花を探してしまう。勝どき橋を思い出す。

ジャスミンはお茶で香りを知った。

広く咲いていることが多く、自転車で通りがかるだけでも、その香りに包まれる。すこし枯れたような枝感が鼻を刺す。肺のなかが日なたの香りで満たされる。どこかの住宅街を思い出す。

くちなしは夜に香る。

輪郭は白粉のようなパウダリーで上品な感じだけれど、つよく甘い香り。湿気を含んで、遠くまでは広がらない。木もそっと隠れている。なだれ坂を思い出す。

金木犀は嫌いだった。人工的な匂いだと思っていた。

秋の青空によく映えるオレンジ。雨に打たれて濃いグレーの道路に散らばっても美しい。少し酸っぱみのある人工的な香りと、甘い黄金色の香りと二種類あると勝手に思っている。四ッ谷を思い出す。友人は私を思い出すそうだ。