2018-01-01から1年間の記事一覧

お粥

小さい頃寝込むと母が作ってくれたお粥は卵と梅干しが入っていて、味の素か何かわからないが、甘かったように記憶している。 中学生くらいになって、市販のセットを使ってトマトリゾットを食べた時、あまりに美味しくてびっくりした。 一人暮らしを始めて、…

「農場の少年」という小説に、靴をつくる場面がある。 うろ覚えだが、農場に靴作りのおじさんがやってきて、父親がそろそろこの子にブーツを作ってやってくれと言う。 おじさんはその場で革をのばして太い糸で縫い合わせて、あたたかで丈夫な水のしみないブ…

鞄の中身

黒いフランス製のリュックサック 大学のブックカバーに包まれた文庫本(いまは「マルタの鷹」) 知り合いのおじいさんが作ってくれた巾着袋の中に、財布と携帯電話 がま口の中に、鍵と目薬とリップクリームとマヌカハニーのど飴 前のポケットに、iPodとBOSE…

食の嗜好

母は料理が不得意だった。 面倒くさがりで甘党だったため、出汁をひかず、煮物は甘く、野菜はいつも大きめに切られていた。 あんこと果物が好きで、ご飯に牛乳をかけたものをよく食べていた。 父はカレーが嫌いで、和食派だった。キムチとかっぱえびせんが好…

つい、 自分を肯定してくれる、 自分の望みをかなえてくれる、 世界を良くするために全力を尽くす、 仕事も車も家も子どもも動物ももっているってイメージしちゃう。 確かではないがわたしのことが好きで、 泣かせたり怒らせたり笑わせたりしてくる、 同居人…

ひとつめの小学校

地方都市の山沿いだった。 となりの町まで小さな川や団地をこえて歩いていった。 寺子屋までさかのぼることができる、創立100年をこえる小学校だった。 二宮金次郎の像があった。(夜に目が光るという噂) 音楽室は古いベルベットの匂い。(壁のベートーベン…

化粧

はじめて化粧をしたときの感情は、けっして楽しいものではなかった。 不健全な年頃だった。 頬のうぶ毛も、まるい輪郭も、濃い眉毛も、重たい瞼も、目の下のくまも、気に入らなかった。 友達に仲間外れにされないように、馬鹿にされないように必死だった。 …

字をかく

100円ショップで写経の冊子を買った。 意味も書き順の説明もあり、反復練習ができる部分も用意されており、綴じ込みで本物に近いベージュの横長の用紙もある。最後のページは仏像のぬりえになっていた。 月の写真の下敷きと携帯毛筆筆ぺんを用意して、こつこ…

四ッ谷

道路がひろくて、坂が多い。 ビルが並んでいるけれど、人の出入りは多くない。 空が目に入り、自分のスペースが保てる、都心の谷間。 坂を下った途中にあるケーキ屋に行こう。 やわらかい白い壁とオリーブの木。ハーブが育つ庭。 シャイなパティシエとふんわ…

ユードラ

六本木のスヌーピーミュージアムへ行った。 最後の企画展名は「ともだちは、みんな、ここにいる。」 撮影ポイントに凝って広告効果を出し、ミュージアムショップで回収するという、お金の流れがはっきり見えてしまっているところに多少げんなりしたものの、…

バター

子どもの頃、うちに大人がいないときは、家中を探索した。 タンスの中の婚約指輪を発見し、押し入れの天袋の天井裏に入り、冷蔵庫のバターを食べた。 乳白色の楕円形の容器から、セットされたバターナイフでたっぷり掬いとって、食べた。 婚約指輪は隠され、…

きれいな色

うつくしいものを見る。 そのとき、ただ素直に生きる喜びを感じる。 スプリンクラーから涌く水にかかる虹。 壁に映る木漏れ日。 もこもことした山の稜線。 羽根のかたちをした雲。 うつくしいものを見に行こう。 きれいな色の服を着て。

7月の午前中

祖父母の家へとつづく砂利道。 糞か肥料か、つよい匂い。 草に埋もれた古い線路。 京都駅で泣いていた女友達。

水に溶ける

車や電車に乗っていて、遠くに海がちらっと見えたときの喜びは、小さな頃から変わらない。 夏でも冬でも、気の進まない旅であったとしても。 どんなに小さな面積でも、見えなくなるまで真剣に見つめている。 容量の差か、湖や川だと、少し興奮度は下がるもの…

チーム・バッカス

生まれつき、お酒がつよいのだと思う。 お屠蘇や、チョコレートボンボンや、親にからかわれて少し味見をした経験の後、友達の家で缶に入ったスクリュードライバーを飲んだ。 友達の顔が赤くなっていくのが羨ましかったのを覚えている。 大学の頃、赤玉ワイン…

遠くへ

迷子の呼び出し放送の仕事をしたことがある。 こどもや親が申告する場合が多かったが、スタッフや他の人が連れてきたり、自分が発見することもあった。 泣いていたり、しょんぼりしているこどもに話しかけ、手を握り、背中をたたいて椅子に座らせる。 彼らは…

「アンダーカレント」豊田徹也 講談社

関口かなえは、亡くなった父の後を継いで銭湯を営業している。2ヶ月ほど前に夫が失踪したため、木島のおばさんと二人では続けることが難しい。銭湯組合の紹介で堀という男性を雇うことになった。 おそらく下町、主人公はショートカットで凹凸が少なくさっぱ…