センサー

上井草のいわさきちひろ美術館に「ショーン・タンの世界 どこでもないどこかへ」を観に行った。

道に迷いやすく地図が読めないので、どこかへ出かけるときは、行き方を調べて紺色のノートにメモして持っていくようにしている。(今回は上井草の駅から連綿と矢印つきの表示が出ていたため確認の必要はなかった)

美術館に行くときに、目的地に近づくにつれ明らかに同じところに向かう人を見つけると、居心地が悪くなるのは何故だろう。美術館に行くわたし、その道中を楽しむわたし、いつもより自分のストーリーに入り込んでいる状態。そこに明らかに見た目で分かるくらいにやはりストーリーを持っている人が現れる。そちらに引っ張られてしまって、入り込めないあやふやな状態というところかな。

住宅街の中の美術館。隣の敷地のジャスミンが満開だった。

1階と2階に展示室が4つあり、順番通りに回ると、いわさきちひろとショーン・タンの展示を交互に観ていくようになる。

いわさきちひろというと、少ない線で構成されたこどもの顔といった印象だったが、多種多様の絵をいちどきに観ると、そのデッサン力の高さにびっくりする。鉛筆と水彩の使いようなどテクニックに見とれてしまった。

その後にショーン・タンの油彩画(イメージボードや各国の風景)を観ると、いったん茫洋とした気持ちになる。

しかし展示室を進むにつれて、イメージスケッチ・デッサン・コマ割り・立体・写真による世界観と物語の構築、年表やアトリエやメッセージを観ることで、どこまでも緻密な作業と長期にわたるその情熱にひきつけられた。

そしてその奥の方にある切ないポイントがいちばん好きなところ。

「生命山羊と山羊飼い、および乗客だち」という絵と「ロスト・シング」という映画にそれが一番現れていた。